発 生    
                    長谷賢一


夜中
閉め忘れた蛇口から

ハダカになった感情が生まれる

ひねりかけた
こころを元に戻して
落ちてくる水滴を受け止めようと
コップを置いた

語りはじめた水滴は
音のしなくなった宇宙に
波を広げる

あなたに届くまで
あなたへの思いが
コップいっぱいになるまで
ぼくはその生まれる
魂の告白を聞いている



             
〜「夕陽の栄養学」 (風致林社 1999年1月発行)より〜


【MEMO】語りかけてくる声が聞こえます。息づかい、鼓動が聞こえてくるような詩です。わたしは「自分」というものに自家中毒のようになって、詩が書けなくなっています。「わたし」は感受する主体であり媒体であり、けれども、わたしはどこへ向かうのか? わたしはどこに向かって詩を書くのか? 詩人、長谷賢一(1966・昭和41年〜)は、「ぼく」にも「あなた」にもていねいに目を合わせています。耳を澄ましています。逃げていません。「わたし」に向かい合い、「あなた」へ向かい、そうして彼は「宇宙」を感じるのでしょう。人は時代の住人でありますが、魂はというと、宇宙を住処にしているのかもしれません。自分の奥深く、魂が発する声を聴きたいと思います。




長谷賢一の詩は他に、
春の詩8「いとしい春のあなた達へ」へ



たましいの詩1「歌の火の山」へ
たましいの詩2「夜の歌より」へ
たましいの詩3「魔法のことば」へ
たましいの詩4「ふたつの白鳥」へ

たましいの詩5「五月」へ
たましいの詩6「黒人は河を語る」へ
たましいの詩7「カサラ」へ
たましいの詩8「わたしは詩を作ってます」へ
たましいの詩10「山の端の月」へ

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たましいの詩