小石はなんて幸せなんだ   
                      エミリ・ディキンスン

 
                               訳/岩田 典子 



小石はなんて幸せなんだ

道路に独り ころがって
キャリア
仕事のことも気にかけず

衣食住こと欠くも恐れず
                   
コート
その天然の茶色の上衣

通りがかりの宇宙が着せた
         
   おひさま
ひとり立ちして 太陽のよう

仲間と和すも 独りっきりで輝くも
           
シンプル
さりげなく 素朴に

天命を果たしつつ




 
   
〜岩田典子「エミリ・ディキンスンを読む」(思潮社)より〜

【MEMO】道ばたの小石に注ぐ眼差しはやさしいですね。キャリアも気にかけず、シンプルに生きる小石の詩を読んで老子を思い出しました。この世にある小さなものを宇宙とつながる存在として見つめ、ユーモラスな詩にするエミリさんは、あの世で老子さんとおしゃべりしているだろうなと、想像して楽しんでいます。小石の生き方にあこがれる感覚について、「エミリ・ディキンスンを読む」の著者、岩田典子(いわたみちこ)はこう書いています。「ディキンスンは多くの詩で、『小さい』とか無(nothing)、無名(nobody)こそが自由に純粋に生きる力になることを語っている」―ディキンスンも宇宙にもらったコートを着て、天命を果たそうとしたのでしょうか。

エミリ・ディキンスン(岩田典子・訳)の他の詩は
夏の詩2「正午 二匹の蝶が出かけ」へ

秋の詩2「その名は 秋」へ
愛の詩3「荒れ狂う 荒れ狂う夜!」へ



人生の詩1「ほほえみ」へ
人生の詩2「希望」へ
人生の詩3「薄明かりの中へ」へ
人生の詩5「岩」へ

人生の詩6「母から息子へ」へ
人生の詩7「父親が旅立つ息子のために神の加護を祈り・・・」へ
人生の詩8「年譜」へ
人生の詩9「時があり・・・」

TOPへ
人生の詩