夏の光 　　　 陳　東東　(チェン・トントン)　　訳/財部　鳥子

光だって成長する一種の植物だ
雨を濯がれ夜に入ると開く
ぼくらの夢の場所


光はそれぞれに香る樹のようでもある
風を集めて
ぼくらをその蔭に眠らせる


今夜　ぼくが話すのは夏の光のこと
雨はもう静かになって
窓辺には一鉢の新鮮な石竹


低い話し声がする
サッカー見物が終わった娘たちだ　軒したで
彼女たちは夏に両手をさしのべている


彼女たちは騒ぐ光を撫でる　木の葉を
撫でるように　あるいは花を
枕辺におくように


そして彼女たちの身体も光のようである
潤って浅黒く　真夏の静寂のなか
ぼくらを引き寄せる




　　〜｢陳東東短詩集　雨の中の馬｣(財部鳥子・訳編　あーとらんど)より〜

【MEMO】やさしい言葉でイメージが広がる詩が、やっぱり好きだなあ、と、中国の詩人、陳東東(チェン・トントン　1962年〜)の｢夏の光｣を読んでいて思います。語り口が美しく、この詩を読むと、いい音楽を聴いてる時と同じ気分になりますね。この詩人は光を愛しているんだなあと、印象派のモネの睡蓮に描かれた光を思い出します。中国の詩人たちは時代と政治の大きなうねりの中で詩を書いていますが、彼はどうなのでしょうか。詩人の財部鳥子(たからべとりこ)、訳編の詩集｢陳東東短詩集　雨の中の馬｣(1996年刊)には、陳東東の略歴が書かれており、「現在は国内の雑誌よりも、国外で発行されている詩人北島(ペイ･タオ)主編の文芸誌『今天』および米国で出されるようになった『傾向』などに詩を発表」とあります。陳東東の詩をこれからも読みたいと思います.。



夏の詩２｢正午　二匹の蝶が出かけ｣へ
夏の詩３｢飛び鮎｣へ
夏の詩４｢沢の蛍」へ
夏の詩５「青葡萄」へ

TOPへ